ミリ波帯での誘電率・透磁率・透過反射吸収の測定
近年、ミリ波帯(30~300 GHz)を利用する通信技術やレーダー応用が急速に進展しています。ミリ波帯の応用が進む中、材料の電磁特性を広い周波数帯域で把握することがますます重要になっています。マイクロ波・ミリ波の広い周波数帯域で材料の誘電率や透磁率を適切に評価するための方法として、「自由空間法(Free-Space Method)」が多くの研究・開発現場で用いられています。
本記事の用語について
本記事では、複素比誘電率の実部(ε')をDk、誘電正接(tanδ = ε'' / ε')をDfと表記します。また、「誘電率」「透磁率」と記載されている場合、断りの無い限り「複素比誘電率」「複素比透磁率」のことを指します。
自由空間法とは:Sパラメータから誘電率・透磁率・透過反射吸収を評価する
自由空間法では、材料を伝搬路上に設置し、材料を含んだ状態でのSパラメータ(反射・透過特性)をベースに、誘電率や透磁率および吸収を算出します。

- Step1 : 試料をセットしSパラメータを測定します。4種のSパラメータを同時に測定します。透過と反射についてはこの時点で取得が完了します。
- Step2 : Step1で得たSパラメータをもとに誘電率、透磁、吸収をそれぞれ所定の式に従い算出します。
実際には、Step1からStep2までをソフトウェアが即座に行うので、測定者としてはソフトウェアのボタンを押すだけで所望のパラメータの結果を得ることができます。これらすべてのパラメータはSパラメータから求められるため、Sパラメータを精度よく測定できることが重要です。精度の高いネットワークアナライザと組み合わせることで、正確な評価が可能となります。
代表的な装置と測定方法
自由空間法は、伝送経路の違いによっていくつかの手法に分類されます、以下に、弊社が提供する各種装置を特徴づける要素技術を説明します。
フリースペース(18-330GHz)

- 電磁波の空間伝搬を用い、材料設置前後の伝送特性から解析
- 左右のアンテナから信号を送受信して4種のSパラメータを取得
- 広帯域に対応しやすく、比較的自由度の高い試料設置が可能
サンプルホルダ(0.5-40GHz)


- 材料を導波構造内に挿入して評価(例:導波管、同軸線路)
- 試料形状やサイズに制約がある
Sパラメータからの各種パラメータを算出するモデル
誘電率を求める計算モデルと、誘電率と透磁率を求める計算モデルに大別されます。その中でも代表的なものを以下に示します。
モデル名 | 測定に用いるパラメータ | 算出するパラメータ | 概要 |
---|---|---|---|
Nicholson-Ross-Weir (NRW) | S11, S21, S12, S22 | 誘電率 透磁率 | NicholsonとRossによって開発され、のちにWeirによって、Sパラメータから誘電率と透磁率を計算するためにネットワーク・アナライザに適用されました。半波長を超える厚さの低損失サンプルでは不連続部が生じる可能性があります。フェライトや電波吸収体などの磁性材料 の評価に最適です。 |
Fast Transmission | S21, S12 | 誘電率 | 誘電率を予測し、その予測値から計算されるSパラメータと実測値の差が、所定の値より小さくなるまで最小化を繰り返します。 S21とS12、またはその平均値を使用します。比較的厚みのある低損失 誘電材料や、反射測定の顕著な誤差が避 けられない場合に最適です。 |
用途と応用例
自由空間法が力を発揮する主な場面には、以下のようなケースがあります。
- 損失の比較的大きな材料の評価(例:吸収体、導電性複合材、導電性ゴム)
- 厚みのある材料や大型断片の試験
- 材料をフィルム状に加工できない場合
これらの用途では、試料のサイズや形状の柔軟性が求められるため、自由空間法が選ばれやすくなります。
自由空間法は便利な一方で、以下のような制約があります:
- 低損失材料の評価には制限がある。(目安として、Df > 0.01)
- より低損失の材料を測定するには、共振器法などの高感度手法が必要。
- 測定精度がネットワークアナライザの性能・取り扱いに依存する部分がある
- 特にS21の測定精度が重要となり、ノイズやドリフトの影響を受けやすい。
まとめ
本記事では、ミリ波帯での誘電率測定装置の幾つかに用いられる自由空間法について解説しました。自由空間法は、広帯域での測定が可能であり、誘電率、透磁率、透過・反射・吸収といった損失材のさまざまな特性を適切に評価できる優れた手法です。材料の形状や損失特性に応じて適切な測定法を選ぶことが、信頼性の高い評価を実現する鍵となります。
EMラボでは、高精度・高速・簡単操作の自由空間法の装置を多数揃えています。各製品で測定結果の例を多数公開していますので、是非その実力をご覧ください。気になる製品についてはお問い合わせフォームからご連絡いただければ、担当エンジニアが折り返し連絡いたします。